赤ちゃんのうんちがアルカリ性になってきているらしいよ

ちょうど6月の妊活講座のお話を書いた直後、最近発表された赤ちゃんの便のpHを調べる研究報告をSNSで発見しました。

元のスタディはこちら(英文)

この研究は、1926年から2017年までの間に行われたいくつかのスタディで調べれた、母乳で育てられた赤ちゃんの便のpHを比較したもの。321人の赤ちゃんの便が対象です。そこでわかったのは、1926年以降現在までで、赤ちゃんの便のpHが5.0から6.5に上がっているということ。数字が高くなるとアルカリ性、低いと酸性です。

よく読むと古いスタディの中で1917年の記録では4.6という数字も見られ、最近のもので一番高いのは2011年の6.41。それこそ、約2.0近くも異なります。これってどれくらい違うかというと、大体ですが、オレンジジュースと牛乳のpHの違いぐらいかな。結構違いますよね。

4.6から6.4程度は全体から見ると弱酸性ですが、徐々に、確実に、アルカリ性に傾きつつあるようだというお話。

これが何を意味するかというと、乳幼児の腸で一番優勢な腸内細菌であるビフィズス菌が減ってきているということらしいです。ビフィスズ菌が母乳に含まれるヒトミルクオリゴ糖(human milk oligo-saccharides:HMO)を発酵する過程で最終的に酸性の代謝物を生みます。ビフィズス菌をたくさん持つ赤ちゃんの便は、ビフィスズ菌の活動が活発なため、ヒトミルクオリゴ糖をどんどん代謝するので、pH値が低く(酸性寄り)、また、ヒトミルクオリゴ糖も便にほとんど残っていません。ビフィズス菌を持っていない赤ちゃんの便は、それに比べて、pH値が高く(アルカリ性寄り)、ビフィズス菌を持つ赤ちゃんの10倍ほどのヒトミルクオリゴ糖が便に残っているそうです。母乳を上手に消化できていないのですね。

赤ちゃんの頃の腸内細菌の偏り(ディスバイオーシス(Dysbiosis):腸内菌共生バランス失調)は、近年では長期の健康への影響があることが明確になってきていますが、特に、慢性炎症や免疫が介在する疾患(アレルギー、アトピー、喘息、自己免疫疾患など)のリスクを上げます。

このpHを引き上げた原因は何か?このスタディの中では以下の3点が挙げられています。

  1. 粉ミルクの多用:母乳には多様なマイクロバイオーム(微生物叢)が含まれるが、粉ミルクにはない
  2. 帝王切開の増加:自然分娩では膣を通過する際に、膣内に存在する多様なマイクロバイオームに触れる機会があるが、帝王切開では、赤ちゃんが免疫を強化するための貴重な機会が奪われてしまう
  3. 抗生物質の多用:出産時や産後(特に帝王切開で)の抗生物質の多用

3番に関しては、お母さんはもちろんのこと、乳児への抗生剤の使用は、せっかく生まれてから大切に大切に育ててきた腸内細菌を一気に殺してしまいます。大人でも1回の抗生剤のコースで元の腸内細菌叢の環境に戻すのには4年かかると言われているほど。大人の病気もほとんど上述のディスバイオーシスが関係しています。

(ナチュロパスの声:一年に1回は抗生物質飲んでる人、飲み過ぎですからねー。本当に必要な抗生物質なんて一生で1、2回飲むかどうかという程度です。)

本題に戻って。帝王切開に関しては、健康に敏感な欧米の人は2番の事を知っているので、今ではVaginal Seedingと呼ばれる方法もポピュラーになってきています。帝王切開の際に、お母さんの膣の中を拭いたコットンを生まれての赤ちゃんの顔や体に塗る方法。欧米では患者さんのリクエストでやってくれる病院・産院も結構あるようです。

ただ、この方法は使われるようになって年月も浅く、性感染症を持っていた場合の危険性や、確率は低いけれども敗血症を引き起こす可能性がゼロではないとのことで、勧めないと言う意見の医師のグループがいたり、その事実を踏まえ医療の専門家がプロフェッショナルに処置すべきだという意見もあったり、賛否両論、まだコントロバーシャル(議論の余地あり)です。

「酸性」と聞くと「悪者!」という印象が強いですが、赤ちゃんの便は多少酸性に偏っているぐらいがちょうど良いのですね。あまりに酸性に偏っていると良くないと思いますが、pH5.0ぐらいがちょうど良いみたいです。

タイムリーだったので、海外文献のご紹介でした。

 

参考文献

Casaburi, G., Frese, S.A., Henrick, B.M., Hutton, A.A., Mitchell, R.D., Palumbo, M.C., Smilowitz, J.T., & Underwood, M.A. (2018). Elevated fecal pH indicates a profound change in the breastfed infant gut microbiome due to reduction of bifidobacterium over the past century. DOI: 10.1128/mSphere.00041-18