奥多摩の桧原都民の森に行ってきました。
日本語の「森林浴」という言葉が、欧米のヘルスコンシャスな人の間でじわじわと広がっています。健康になるために森で過ごすという意味では、ドイツのクナイプ療法に歴史がありますが、クナイプ療法はハイドロセラピーを含む包括的な自然療法を指すので、単純に森林を楽しむ意味で、「森林浴」、英語への直訳「Forest Bathing」、が響いたようです。
日本にはNPO法人森林セラピーソサエティが認定した森林セラピーロードというものがあります。アロマを勉強した人にはお馴染みのα-ピネンやリモネンなど植物の放出する揮発性の化学物質(総称をフィトンチットと呼びます)を測って科学的・生理学的に、人の体へのリラクゼーション効果が認められ、且つ、体の不自由な人も楽しめるように一定の設備・整備が整った森林が、森林セラピー基地またはセラピーロードとして認定されます。現在、62カ所が認定されているようです。
東京都で初めて森林セラピーロードに認定されたのが、奥多摩の桧原都民の森。武蔵五日市からバスで75分。都民の森はこんな風に出迎えてくれます。
昔、クライミングをしていたのですが、始めた当初は初心者向けの岩場のあるこのエリアにもよく来ました。クライミングの取り付き地点までの山歩きは行き着いた先に岩と木々の素晴らしい光景があるので大好きなのですが、延々と登っていくだけの山登りは下ばかり見てしまうので、実はあまり好きじゃありません。
高低差のあまりないオーストラリアのブッシュウォーキングやイギリスのカントリーウォーキングは大好き。だからこそ「登らないで緑を楽しむ」ことを目的に森林セラピーロードを選んだわけで、始めは「高低差200m程度の楽な2~3時間コースでたっぷり休憩しながら」と思っていました。ただ、もう一つ、ブナの路コースという見るからに魅力的なコースもあります。でも、3~4時間で高低差500m。う〜ん、ちょっときついかも。
とりあえず、三頭大橋の先の楽ちんコースとブナの路コースの分岐まで行って様子を見ることに決定。
三頭大橋までは緩やかな上りで、こんな風景に囲まれ、超ハッピー。分岐地点に至っても時間はまだまだ余裕。じゃあ、行っちゃおう、ということでブナの路コースへ。
ところがこの分岐地点からムシカリ峠まで、思ったよりもきつかった。およそ30分程度で高低差300m。でも、ムシカリ峠に着いた途端に空気が変わります。急になだらかになり、完全にブナの森に囲まれます。
薄い黄緑色に包まれるブナの森の中は、まるで水の中にいるようで、数か月前に大人の遠足で行った三重県鈴鹿の椿大神社を思い出しました。よく似ています。思いっきり空気を鼻から吸い込むとほのかに木の香りの揮発成分を感じて、さらに上の三頭山のてっぺん近くではもっと色々な香りがしました。
ムシカリ峠から先1時間ほどはルンルンです。顔も笑顔でニタニタで、ニタニタルンルン、スキップしたくなります。見晴らし小屋から先には杉の植林があり、黄緑色から赤茶色の世界に変わります。
途中でなぜか亡くなった父を思い出す木がいたり。エネルギーとかのお話ではなく、単純に父が来ていた服だかネクタイだかの柄に似ていた木。過去の日常の記憶の断片が瞬間に蘇ります。
そして、赤い杉の植林地帯を抜けると急な下りが続きます。
結局、休憩などを除くと歩いたのは3時間半ほどだったでしょうか。時間は短いけれども勾配が急なので、途中ですごく疲れました。結局、プチ山登り。ルンルン半分とぐったり半分と両極端なコースでございました。
当日は「上りがきついからもう来ないかな〜」と思ったけれども、今思うとあのブナの森はなかなか味わえないので、また行っちゃうかも。やはり日本は上に登っていかないとあの空気は味わえないのですね。2~3時間の楽ちんコースだと、あのブナの森のルンルンは味わえなかったと思います。
奥多摩は日帰りできる距離ですが、今回は贅沢にこんな景色が周りにあるお宿に一泊。沢の音を聞きながら過ごす朝のひと時がとても気持ちよかったです。
久々に木々に囲まれて大満足。エネルギーチャージできました。都会にいるとあっという間にエネルギーが吸い取られてしまうけれども。
ちなみにシドニーでは、都心のシドニー湾沿いにあるコスタルウォークのブッシュに、α-ピネンやシネオールをバンバン出してくれるユーカリの林もあったりして、普通に散歩しているだけでフィトンチットを味わえます。測定するまでもありません。ブルーマウンテンズなんて、ユーカリの揮発成分のせいで青く見えるからブルーマウンテンズと呼ばれているくらいですから。
それにしても、「絵文字」や不名誉な「過労死」などの日本語以外に、「森林浴」や「腹八分目」など、日本の良い文化を表す言葉が広まるのは嬉しい限りでございます。