前回からの続きです。長いのでご注意くださいませ。
食べ物から引き起こされる問題には、IgGやIgEだけでなく、たくさんの要因が関係しているのは理解していただけたかと思います。
なので、通常、私のコンサルテーションでは、検査よりも、実際に食べ物を除去して反応を見るエリミネーションダイエット(除去食)をオススメしています。すでに書いたように、IgGテストで陽性が出たもの全てに症状が出るわけでもなく、IgGテストだけではわかりきらないことがたくさんあるからです。特に、IgGテストを考慮するケースは消化器系の不調か、アトピーのケースが多いですが、それこそ可能性が多岐に渡るのでそれだけでは原因がわかりきらず、テストの結果だけや書物に書かれたことだけに頼って食材を除去すると、結果的に栄養不足になってしまうからです。
ただ、膨大な食材がある中で、効果的でクライアントに負担の少ないエリミネーションダイエットのプランを作ることには都度苦労していました。
話が長くなるので、細かい部分ははしょりますが、今回のアトピーの「根本の原因」は帰国前後の飽食で荒れた胃腸、「発症させた原因」はアレルゲンへの接触(ハウスダストと埃)です。ここまでは確実でした。アレルゲンからのプロテクションをして、どっと派手な炎症を起こすようなことはなくなりました。ここで、やはり「アレルゲンの除去」の重要性を再認識。
でも、まだ何かに反応して炎症を起こし続け、良くなったり悪くなったりを繰り返していました。すでに炎症が起こってしまっていたので、普段は反応しない食べ物にも反応し始めたのです。
ナチュロパスなので、もちろんまずは胃腸を治すことに専念しましたが、食べ物に対する反応の方が強すぎて胃腸の状態も治らず、いつもなら「これさえあれば怖いもの無し」の胃腸壁の状態を良くするお助けサプリも効かない。炎症を持続させている原因になっている食べ物をやめないと、治るはずの胃腸が治らないのがわかってきました。
食べ物に関しては、昔、アトピーがひどかった時に、ヒスタミンを発生しやすくさせる青魚・赤身魚や肉は検証済みで、大して問題ないという結果はすでにありました。今回も青魚はたくさん食べていましたが、でも、どうも、魚が犯人ではなさそう。多少影響はあったとしても「悪化」をさせるほどではない。
精製小麦食品も乳製品も食べていないし、食べ過ぎは症状を悪化させるのがわかっている卵も、炎症が出始めてから一切食べていない。ポピュラーなアレルゲンはほとんど除去できています。
その他に、シドニーで食べていなくて、日本で食べているものは?明らかに、喜んで食べていた大豆食品。豆腐・味噌・醤油。「もしかして、IgG食物不耐性!?とうとう大豆に出た?」と焦りました。唇の周りも敏感になっていて、ある種の食べ物を食べた後は、洗い落とさないと猛烈な痒みに襲われるようになってきました。
「ヒスチジンが多いはずの鯖寿司を食べて大丈夫なんだから、ヒスチジン量が青魚の1/4程度の味噌にそこまで反応するはずはないし、ヒスチジンではなさそう。大豆のIgG不耐性が出たとしても、大豆のタンパクは発酵されるとアレルギーとして反応しないはずだから、その場合は大豆を使った発酵食品には反応しないはず。ということは、大豆食品と発酵食品の両方に不耐性が出てきたってこと?でも、こんな短期間で?」
とりあえず、大豆食品(豆腐、きな粉含む)・味噌・醤油を試しに止めました。これが、最近シドニーで食べていたものに戻した理由です(シドニーでは味噌・醤油は滅多に食べていなかったので)。
すぐに新しい炎症は起こさなくなり、顔に出ていた炎症が引き始め治りました。そして、「いい機会だから実際に検証してみよう」と、思い切ってIgG食物不耐性のテストも受けてみました。テストの結果が出るまでの数週間、引き続き大豆食品・味噌・醤油は除去して過ごし、どんどん炎症は引いて、顔の炎症は治りました。
唇探知機は、痒くて大変だったけれども、ある意味便利。唇探知機のおかげで、味噌でも種類による反応の程度の差、その他食材への反応や、生鮮食品への反応も細かにわかりました。ある程度、症状が治まり始めると、他の食品に対する反応も顕著にわかるようになります。確かにヒスチジンが多いと言われる食材に多少の反応はするけれどもひどくはない。どうも問題なのは、きな粉・味噌・醤油、幾つかの食材。
IgG食物不耐性のテストの結果が戻ってきましたが、IgGで陽性だったのは、卵白と乳製品のみ。いずれもすでに除去しているものです。卵は帰国当初少し多めに食べていたので、胃腸の荒れを悪化させた要因の可能性はあります。でも、すぐにやめたので炎症を持続させている要因ではありません。大豆も問題なし。
そして、わかったこと。
ヒスタミン食中毒のメカニズムと同様に、発酵食品では発酵段階で乳酸菌や微生物がヒスチジンを分解してヒスタミン量が増加します。ヒスタミン産生菌とされるものは、食中毒を起こす海洋細菌の他に、乳酸菌、腸内細菌、発酵段階で発生する微生物など、いくつかあります。アトピーの人が、チーズなどもヒスタミンが多いから避けるように、と言われるのはこれが理由です。一般的に、ヒスチジンの注意喚起をされるときの発酵食品は、すべてのアミノ酸を含む、タンパク質の多い魚や肉(ハム含む)や乳製品の熟成・発酵食品が例に上がることは多いです。同じ発酵食品でも、味噌などは、原料の大豆のアミノ酸の含有量もそれほど多くなく、ましてやアミノ酸を多く含むわけでない米味噌や麦味噌はノーマークでした。でも、味噌や醤油でも発酵の過程で同じことが起こるのです。少量のヒスチジンが微生物の働きで多量のヒスタミンに変化されます。しかも、原材料にヒスチジンが含まれていなくても、微生物がヒスタミンを生成してしまいます。確かにヒスタミン量は多くはなります。ところが、物にもよりますが、他の食品と比べてもそこまで気にしなくてはいけないような数値には見えず、掘り下げていくと、どうやら、問題はヒスタミンだけではないのがわかってきました。
チーズでも味噌でも、ヒスタミンだけでなく、同じアミノ酸の一種であるチロシンから生成されるチラミンも膨大に増えます。このチラミンがヒスタミンの毒性を高めます。チラミンは、ヒスタミンの抑制を阻害し、かつ、ヒスタミンの吸収を促進し、ヒスタミンの効果を増大させます。また、チラミンに関してもヒスタミンと同様に、原材料にチロシンが含まれていなくても、発酵段階で微生物によってチラミンが生成されます。その増える割合が、ヒスタミンが増える割合よりも大幅に多いようです。更に、同じような作用をするアミン類にリシン(リジン)から生成されるカダベリンもあります。このように、ヒスタミン単体だとさほど問題はなくても、他のアミン類と幾つかの種類の微生物が一緒に存在することでヒスタミンの作用をさらに増大してしまい、症状に大きく影響するようです。
味噌と醤油はこれでわかりました。お味噌汁を一回食べる程度だとそうでもありませんが、帰国後は毎食に近い勢いで食べていたので、炎症が継続してしまっていたようです。そして、調べてみると、きな粉はヒスチジンもチロシンもリシン(リジン)も含有量トップクラスの食品でした。
チロシンは甲状腺ホルモンの材料ですし、リシン(リジン)も必須アミノ酸で口唇ヘルペスの治療に役立ちます。体に大切な栄養素です。本来は避けるべきものではありません。でも、アレルギー体質の人には、食材によって、条件が整うと、痒みを持続させてしまう原因になってしまうようです。
なぜ、日本では発酵食品が多いのに、生体アミンの情報が少ないのか?何よりも難しいのが、原料・熟成や発酵の方法で、それぞれ成分の含有量が大幅に異なり、平均的な数値を出すのが難しいようです。実際に研究や論文などを読むとその数値に大きな差があります。それは自分の体でも感じました。比較的問題のない味噌・醤油・きな粉もあり、てきめんに痒くなるものもある。
あと、魚のヒスタミン食中毒のメカニズムが実証されたのが、うっかり食べた鮭の缶詰。鮭は赤いけども、白身魚なのです。鮭の食べ物のせいで身に赤い色がついていますが、もともとは白身です。なので、大丈夫だろうと思っていました。防災非常食で保管していたもので、そろそろ食べないと、と思って調理して食べました。そうしたら、食べた瞬間から唇が異常に痒くなり、体のビリビリ感が二日間抜けませんでした。鮭に含まれるヒスチジンは少量だけれども、きっと、缶詰にして保存されていた間にものすごいヒスタミンが増えてしまっていたのでしょう。反応は味噌や醤油の数倍ひどかったです。これが菌の存在で更にヒスタミンが増えるとヒスタミン中毒を起こすのかと思いますが、そこまでに至らなかったとしても、アレルギー体質で炎症が起こってすでにヒスタミンが増えてしまっている人には十分に影響があるのだと思います。鯖寿しも、私が食べていたものは大丈夫だったのでしょうが、きっとダメなものもあるのだと思います。
そして、上述した通りヒスタミンの生成は乳酸菌も関係しますが、乳酸菌系はヒスタミン産生菌となりヒスタミンやチラミンを増やす傾向にあり、ビフィズス菌系はヒスタミンを減らして症状を緩和してくれる傾向にあります。乳製品の発酵食品であるヨーグルトも、反応がなければ食べていても問題はないと思いますが、乳酸菌のものは注意した方が良さそうです。腸内細菌も関係するので、同じ食材を食べても、反応に個人差があるのはそのせいなのかもしれません。
この経験でわかりましたが、ヒスチジン含有量が多い食品でも新鮮なものは比較的問題はなし、特に発酵の過程を経たものや、常温で長く置かれていたものは要注意。
このことがなかったらここまで深く調べていなかったと思うので、理由があってまた起こったアトピーだったんだな、とつくづく感謝です。
エリミネーションダイエットをするに際して、膨大な可能性がある中で、どうやって食品を切り分けたら良いか目安がつきました。今後、コンサルテーションでのエリミネーションダイエットプランに反映していこうと思います。
生体アミンやサリチル酸は、アレルギー症状以外に、精神疾患の症状や、その他の不調にも関係する可能性がありますが、個人差があるので、実際に反応するかどうかはエリミネーションダイエットをしてみないとわかりません。また、摂取の分量でも反応が異なります。これらアミノ酸を含む食品は優秀な食品なので、症状がひどくない場合は全体の栄養のバランスを考えて、数日おきにでも摂った方が良い場合もあります。各成分を含む食品を全部を除去をするなどして、栄養不足にならないようにご注意ください。
また、健康な人や、アレルギー体質でもアレルギーの炎症が起こっていない人には、食べても全く反応は起こさず、むしろ、ヒスチジンも、チロシンも、リジンも、とてもとても大切な栄養素です。アミノ酸を含むタンパク質は体を作る重要な栄養素なのでしっかり食べてくださいね。