不妊治療中の人、また、不妊治療を卒業した人へ その3 <卵子・精子提供で生まれる命>

「LGBTばかりになると足立区が滅ぶ」「子どもを3人は産んで欲しいと発言すると叩かれる」などと、また意識の低さを露呈した議員がいる悲しい日本の現実。少子化問題に関連して出た発言とのことですが、ほんともう、とほほ、です。

それはさておき、というか、むしろ関係しますが、精子・卵子ドナーの話です。

体外受精(IVF)など不妊治療において、日本の治療数は世界でも断トツ多いのですが、その成功率は断トツ低いという事実があります。


Human Reproduction, Vol.31, No.7 pp. 1588–1609, 2016
doi:10.1093/humrep/dew082

ちょっと古く2010年ごろのデータになりますが、上記グラフの青は不妊治療(体外受精や顕微授精)などの医療の件数、赤がその実施件数1回における出生率。アメリカの35%の出生率に対して、日本は6〜7%。どの国比べても低い。

この理由は、妊娠に関する一般教育の低さで不妊治療を開始する年齢が遅いことや、不妊治療において日本人は強いホルモン治療を嫌い比較的自然な方法を求めるために結果が出づらいことなど幾つかの要因があるようです。

また、海外の方が男性の協力も多く、早いタイミングで精子・卵子ドナーが必要かどうかの結論に至れることも関係していると思います。結果として、人工授精、体外受精、またその他の方法などへのアプローチの変更を段階的に早めに促すことができ、無駄に人工授精や体外受精で治療を長引かせない。

また、日本では有償の精子・卵子提供は禁止されており、まだ卵子提供はポピュラーでもなく、提供できる機関も限られ(OD-NET)、利用できる条件も厳しく、関連した法律も整っておらず、とにかくハードルがとても高い。精子提供はそれよりは多く存在はするけれども、有償の精子バンクは国内にないので、ボランティアの精子しか使えず、また、これも適用条件は厳しく、それにもかかわらず人工授精しか認められておらず体外受精ができないため成功率が非常に低い。ともに、全く実用的ではないわけです。

精子・卵子提供の仕組と運用、法律、国民の認識が全て弱い。自然療法と同様にこの分野でもおそらく海外からは20〜30年は遅れているでしょう。

精子・卵子バンクともに海外には有料のものが多くあり、有料であるからこそ厳選して選ばれた精子や卵子が使われます。もちろん、成功率も上がります。

日本の医療は最先端、と自負する姿も見られますが、それが実際に国民の生活に還元されているのかというと、特に不妊治療に関しては、冒頭にあったような時代遅れな意識の壁もあり、それが故のガチガチに固められたルールと仕組みにより、全く有効に使われていないように思います。もっと議論がされるべきエリア。

その1でちょっと触れた、卵子提供で50歳で妊娠した友人の話をご紹介します。

彼女は49歳で結婚しました。昔からとても子供を欲しがっていた彼女だったのですが、今の旦那様とのご縁は遅くに訪れ、閉経に近い年齢で一緒になりました。閉経後も子供のことは諦められず、海外で卵子提供での妊娠をトライすることにしました。

海外の卵子バンクや卵子提供によるIVFを行うクリニックを調べ、旦那様と一緒に慎重にドナーを選び、旦那様の精子と受精。受精卵を彼女のお腹に戻し、初めてのトライで50歳で妊娠、51歳で出産をしました。IVFに向けて治療を行う前に、高齢出産に向けていろいろなリスクを減らすべく、ちょっと問題のあった卵巣と卵管を結果両方とも摘出されています。

当初、実は私は卵子提供には反対でした。そもそも医療の介入をできる限り減らしたい派ではあるし、また、命の操作をするイメージがあり、正直彼女のエゴのように感じていたのを覚えています。精子提供ならば自分の卵子を使うので、その卵子を自分の体に戻すことはあまり体にも負担は大きくないように思えましたが、自分のDNAとは全く異なる卵子と精子を子宮に戻して自分の体で着床させることに無理があるように思えたのです。

仕事では絶対に自分の主観をクライアントに押し付けることはしませんが、家族のような友人ですから本人にも私のその感想は伝えていました。私も古い考えの持ち主だったのですね。

でも、今、生まれてきた子が愛情をたくさん受けてすくすく育っていく姿を眺めると、紛れもなく彼女の子だと実感して、感動すら覚えます。彼女の強い想い、エゴがなければ、生まれてこなかった命。本当に紛れもなく、その子の一番の生命のつながりの深さは彼女につながっているんだなとひしひしと感じます。

強い想いで生まれた命、望まれて生まれた命。そういう形もあるんだなと今は思います。私の考え方も大きく変えてくれた経験でした。

彼女自身も、産まれてくるまでは本当に心から愛せるようになるか考えたこともあったけれども、その子に会った瞬間にそんな不安は吹き飛んでしまったそうです。

In Vitroの研究ですが、他人の卵子で育てた子供にも産みの母の遺伝子が少量伝わるということがわかっているようです。どことなく彼女の面影があるお子さんの顔を見ているとありうるな、と思います。

この精子・卵子提供に関しては、社会の意識を変えて議論を活性化していかないと前に進まないようです。本当の少子化対策の一つとして、この部分の意識も変わると良いなと思います。

そのためにはこうしてたくさんのケースを実際に耳にする、目にすることが大事だと思います。

海外の卵子提供のサービスを仲介しているところは幾つかあるようなので興味のある人は調べてみてください。

また、もう一方で、私はアメリカなどの不妊の標準治療と日本の標準治療で扱うホルモン剤の差が実際どんなものだかは知りませんが、閉経をして且つ卵巣摘出している女性に、自分のものでない卵子の受精卵を着床させ、妊娠を継続させ、出産し、母乳で育てることまでできる事実に正直驚きました。何がそこまで違うのでしょう?

基本的に強力な薬剤を使うことには反対ではありますが、無駄に長く苦しめる現在の不妊治療の事を考えると、リスクを提示しながら選択肢を増やしてあげることも必要なのではないかと思います。

最後のその4では、産まない決断をした女性たちへの応援歌です。

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