小さな美術館 ミュゼ浜口陽三ヤマサコレクション

仕事の合間に近所の美術館に行ってきました。贅沢な時間の過ごし方!

水天宮にあるミュゼ浜口陽三ヤマサコレクション。浜口陽三さんは、銅版画の一種、カラーメゾチントの復興者として国際的に有名な芸術家です。メゾチントとは、黒と白の濃淡の階調が豊かに表現できる銅版画で、カメラ(写真)が開発される前に使われていた技法。そのメゾチントを復興させただけでなく、カラーに発展させたのがヤマサ醤油株式会社10代目社長の息子さん、浜口陽三さん。2000年に91歳で亡くなられるまで、主に海外で活躍されました。

お恥ずかしながら最近まで浜口陽三さんのことは知らなかったのですが、人に紹介してもらいインターネットでその作品を見て衝撃を受けて以来、行こう行こうと思っていた美術館。実際に生の作品を見たら鳥肌が立ちました。インターネットにある作品の写真とは全く異なる本物の作品の色の深さ。現在展示されているのはさくらんぼをモチーフにした作品が主なのですが、入り口の方に展示されている「琥珀色のくるみ」にまず鳥肌。

黒く見える色も黒ではなく、様々な色が重なって深く、角度によって見えてくる色が変わります。緻密な線と色の明暗の重なりが細部に渡り、空間と色と光を描いています。ノックアウト。

光と影と色の哲学的なリアリティというか。

私は物心ついた頃から18歳まで毎日毎日絵を描き続けて生きていたんですが、絵を描かなくなってから「絵を描くための物を見る目」がなくなってることに気づきました。

絵を描かなくなってから数年経ったある日、ふと、「なんだか物の見え方が違う。平たい。」と気づきました。絵を描いていた間は全く気付かなかったのですが、目から見える情報を常に、光と影、空間、色と光、で測って見ていたようです。要は3Dで表現できるよう、粒子の塊としての情報を目からインプットしていたんだと思います。

ちなみに、残念ながら、その「物を見る目」は戻っていません。失くして初めて気付きました。

光と色の存在自体について、絵を描く人なら皆常日頃深く考えるところだと思うのですが、浜口陽三さんの作品はそういう思索の中でのリアリティが表現されている感じがします。私は「目」は失くしましたが、幼少の頃から考えていた光と色の存在についての「思考」は残っています。なので、脳の奥の方に入られた感じがして、ぞっとしました。

カラーメゾチントは、彫る技術だけでなく刷る高い技術も必要らしく(作品を見て分かりますが)、芸術性と哲学性と技術性を兼ね備えた作品。浜口陽三さんは生前のインタビューで「一枚は刷れたとしても、50枚を同じように刷る技術を持った人がほとんどいない」と語っています。ほとんどの作品を口を開けっ放しにして見ていました。浜口陽三さんの油絵も素敵です。

銅版画は痛みが早いらしく1つの作品を長く展示して置けないそうで、展示コレクションは何回か変わるらしい。また、次回行く楽しみができました。

ちなみに浜口陽三さんの奥様は、南桂子さん。同じく銅版の版画家。小鳥、少女、花をモチーフにした絵本の挿絵のような版画です。作品を見たことはありますが、てっきり最近の作家さんによるものかと思っていました。才能に溢れたご夫婦です。

入館料も600円と安いので、暇な週末に是非一度行ってみてくださいませ。