美術館のはしご

先日のオフ日、美容院で読んでいた雑誌に、KITTEでボタニカルアートの展示をやってるとの小さい記事を発見。

東京大学総合研究博物館と英国キュー王立植物園との協働による展示『植物画の黄金時代――英国キュー王立植物園の精華から』。シドニーでボタニカルアートに魅了された私は髪を切ってすぐにその足で行ってみました。

キュー王立植物園所蔵のボタニカルアート(植物画)と東大とその管理にある小石川植物園所蔵の植物標本のコラボです。植物画は18世紀初頭の作品から、標本は東京大学創立時の1877年からの物もあり、歴史的にも、サイエンスとしても、アートとしても、楽しめる面白い展示方法になっています。

が、シドニーでイギリス文化を汲んだボタニカルアートに触れてしまった私。ワークショップにもほんの少しだけ通い基本を習いました。ボタニカルアートでは、実物と同じ大きさで、精密に精密に同じものを描き写します。形を取るときに、創造性を組み込むことは許されません。あくまでも形は実物に忠実に厳密に正確に取ることを求められます。

こんな風に細部は虫眼鏡も使います。右は点描画の練習。

著作権があるので、ここに他の方の作品は載せられないのですが、今のボタニカルアートは本当にすごいことになっていて、非常に精密で正確でありながら、芸術性がとても高く、イギリスにもオーストラリアにもとても厚い層のボタニカルアーティストが活躍しています。インターネットで「botanical art」や「contemporary botanical art」で検索してみていただけると、たくさんの作品が見れると思います。

すごいアーティストがたくさんいすぎてなかなか選べないのですが、すごく好きなのはGraham RustさんのIrisの花の部分だけの作品。アイリスの赤紫の妖艶さと柔らかさが表現されている、見たら目が離せない作品。ここに載せられないのがもどかしい。

シドニーのロイヤルボタニックガーデン所蔵のボタニカルアートも素晴らしかったので、「ボタニカルアートの本場、イギリスのキュー王立植物園の作品ならばそれはそれはすごいものがあるだろう!」、と、期待しすぎた。

えー、と、歴史4:サイエンス4:芸術性2という感じの構成?ブローシャーにあるチューリップは1740年に描かれた作品で、とても素晴らしかったのですが、このレベルの作品は1、2点しかなく...。

その代わり、小石川植物園の歴史が見れて面白かったです。小石川植物園の近くの幼稚園に通っていたので、幼稚園の頃からよく行き、大きくなってからもデートでなどで使わせてもらった場所。都会っ子が触れられる唯一の小さい自然。そんな場所に、あのアインシュタイン夫婦も来られていたようで、写真が残っていました。

展示作品が悪かったわけではなく、私の期待していたものと展示のコンセプトが合っていなかっただけのことです。でも、無料でだったので、それはすごいこと。

でも、欲が満たされず悶々としてしまったので、近くの東京ステーションギャラリーで開催しているもう一つの展覧会に行ってしまいました。「シャガール 三次元の世界」。本当は来週一仕事終えた後のご褒美で行こうと思っていたのに...。

シャガールの晩年の彫刻作品と、それに由来する絵画作品を一緒に展示しています。二次元のキャンバスに三次元を描こうとしていた画家の三次元作品。こちらは、記憶に残る、期待以上に素晴らしい展覧会でした。

作品数もすごいですが、シャガールのシャガール独特の作風に至るまでの作品の遍歴も簡潔に見れながら、一番脂の乗った時期の作品を多く楽しめます。油絵、水彩、様々な材質を使った彫刻、コラージュ、エッチングなどなど。

一番すごいなぁと思ったのは、この展示会の一番の見どころの「誕生日」の油絵と大理石作品に込められたシャガールの気持ち。油絵は最愛の妻ベラと28歳で婚約した時の幸せな心情を描いたもの。もう一つは、同じ題材を大理石に掘った彫刻。3Dを完璧に使いこなしていて、完全に成熟した芸術作品。完成度というか成熟度があまりに違うので「あれ?いつの作品?」と思ってみたら、シャガールが80歳を超えてから作った作品。「そりゃあ、完成度が高いわけだ」と思いましたが、それよりもびっくりしたのは、ベラはこの彫刻が作られる20年以上前にすでに亡くなっていて、初めの「誕生日」の油を描いた頃からも50年以上過ぎていて、ご本人も80歳を過ぎ、それでもこの作品を作り出すほどの当時の情熱を残しているということ。

天才は心の体力も違うんだな、と思いました。見せていただいたこちらもお腹いっぱい。大満足。

ポンピドゥーセンターや他の美術館所蔵の作品もいくつかありますが、ほとんど個人蔵のものなので、なかなか見れない展覧会だと思います。12月3日までなのでお見逃しなく。